Taka Hatori (CASBAH) interview

「世紀末、一つの時代の終焉」

「きっと杉浦君の考えてる一番最悪な事なんじゃないかな」 9月3日、目黒ライブステーション、それはCASBAHのステージが間もなく始まろうという時だった。JURASSIC JADEの長谷川氏にそう告げられた瞬間、思考が一瞬止まったような気がした…。それより遡ること数日前、やはり長谷川氏より「9月3日は何をおいても駆けつけろ」といった旨のメールをもらった時から、何かあることは薄々勘づいてはいたものの、その“最悪”の事態だけは無いだろうと何となく思っていた。いや、そう思いたかったのかもしれない。そういった経緯を経て、その運命の日を迎えたわけだが、どうにも煮え切らないもやもやした気持ちを拭えずにいた一方で、何故か必要以上の深刻さを感じてはいなかったのも事実だった。それが、急転直下、一瞬にして崩壊してしまったのである。信じていたものが崩れ去ろうとしている、目の前から消え去ろうとしてる…そんな一人パニック状態に陥った私ではあるが、勿論そんな事はお構いなしに場内は暗転、ここ最近お馴染のSEは流れ始めたのである…。
 ライブが終了して、帰宅する途上も、家に着いて飯食ってる時も、布団に潜り込んだ時も、その事ばかりを考えていた。そんな中で、どうしても重くしこりとして残っているものがあったのは、それは「本人の口からは何も告げられていない」という事だった。それだけは、どうしても直接本人の口から真実を聞かなくてはならないと思った。一日が過ぎ、二日が過ぎ、私の気持ちは固まった。 「俺がCASBAHの死に水をとる」 大袈裟だと笑いたい奴は笑えばいいし、ならばこの記事を読み飛ばしてもらって一向に構わないし、そんな奴には読んで欲しくはない。俺以外に誰がいるんだ? これだけは絶対に譲れない。


※ このインタビューは、KABBALA#26(2000年11月発行)に掲載したものです。




  日 時:2000年9月17日(日) 午後3時頃

  場 所:千葉県船橋市・津田沼のデニーズにて

  話し手:羽鳥 恭充 (CASBAH/Vo)

  聞き手:杉浦 康司 (KABBALA'zine)




 結果からいえば、9月3日の目黒ライブステーションがラストライブだったんですか。

羽鳥:解散という言葉は使わないつもりなんで…。メンバーの中にもまたいつかどこかで「もう一回やってみようか」という話が出た時に、それに乗れる人がいればやってもいいかなって、そういう可能性は絶対に残しておこうという話し合いはしたんだ。解散という言葉は使わずに、一回ピリオドを打とうかという事になった。だから…取り敢えず最後のライブだね。

 何故ピリオドを打とうとなったんですか。そこに至るまでの過程には凄い精神的な葛藤もあったと思いますし、凄く思い悩んだ部分があったと思うんですよ。多分、いきなり出てきた話では無いと思うんですが、ここで一旦CASBAHという看板をちょっと置いておきたいという…事なんですよね。つまり、CASBAHという名で活動していく事の重荷というか…。

羽鳥:それは俺とギターの村山の2人にはあったね。今回ストップかけるのを決める前に、実際俺と村山の2人で話をして、CASBAHという名前の大きさと言うか、何て言うのかな…重荷だよね、そういうのをお互いに凄く感じてて。今迄お互いにそんな事は言った事なかったんだけど、そういう話を初めてしたら「ああ、お前もそう思ってたのか」 「なんだ、同じ様な事を考えてたんだね」っていうような事になって。まぁ…重荷になってたという部分は確かにあったよね。

 それはファンが期待してる部分と自分達が提供していきたいものとのギャップというか、葛藤もあったんですかね。

羽鳥:でも、そのファンの人が期待してくれてるものに対してって、いつもCASBAHは応えてなかったと思うから(笑)、常にこう、裏切りながらきたからそれは無いと思うんだよ。

 確かにそうかもしれません(笑)。

羽鳥:あくまでも自分達の中だけの問題だと思うんだけども。やっぱりこれは長い事一つのバンドでやった人間にしかわからない事なんだけども、もうCASBAHを15年やってるわけだよね。そうなると当然、当時ライブに足を運んでくれてたお客さんが、今は同じようにバンドをやっていて同じステージに立つような年代で全然おかしくないし、現にそういう人は沢山いるから、そういう中でライブが終わって打上げの席で話をすると、「高校時代にCASBAHを観てましたよ」とか「聞いてましたよ」「コピーしましたよ」って話になるよね。それは最初は良かったんだけれども、それがツアー行って地方行っても何処行ってもそういう話になって、話す事と言ったら当時の事、過去の事ばかりで、今の俺達はどうなのよ?って(言いたくなる)。みんなは昔のCASBAHの事を言うけれど、俺達にとってはそれは過去の事で、現在進行形でこの4人のメンバーで活動しているCASBAHがあるんだから、もっとそっちを観てくれ!と。もう少しそっちを観てくれ!と。今のCASBAHの方がカッコイイだろ?って言いたいんだけれども、受け止められ方としては「あの当時は良かったですね」っていうのが大半なんだよ。それがもう凄い鬱陶しくなってきて…それはそれで嬉しいんだけどね。だけど過去の遺物じゃないんだからさ、生き続けてるバンドなんだからさ、その一点だけしか見てもらえないっていう事に対しては凄い不満があって。だから当然それは、より良いライブを演って、昔よりもより良い曲を作って作品として出していけば、それ(過去に受けた好評価)を上回ればいいんだという気持ちで今迄ずっとやってきたんだけど、そうやっている中でも…何て言うのかな、比較されたりとか、そういう事で周りからの声に対して凄い苦痛を感じたのは確かだよね。

 バンドとしては「DINOSAURS」で一旦精算したはずの過去が、逆にそれによって再評価されてたりした面もあったのかもしれませんが…。

羽鳥:一部の、本当に好きでいてくれる人達だけの話だと思うんだけれども…。でもやっぱり会ったら「長いですよねぇ、何年やってるんですか?」とか、そういう話ばっかりなんだよね。それは要らないんだよ、俺達にしてみれば。当然、向こうがそう言いたくなる気持ちもわかるんだよ。極端な話、自分等がIRON MAIDENと対バンしてSteve Harrisに出会ったら「いやぁ、中学の時から聴いてましたよ!!! 今でも現役でやってて凄いですね」って言いたくなるもん。その気持ちはわかってやんないといけないのかもしれないけども、でも…今の俺達をもっと見れくれ!って、そういう気持ちが凄い強くて。勿論、古平と小林にも…当時のメンバーじゃないからね、当然彼等はそういう事を言われて嬉しいわけないしね。今の方が良いだろう!!! って胸張って言いたいだろうしね。で、俺もそう思ってたから。だからもっと今のバンドを評価してもらいたかった。

 例えば、ライブで新しいマテリアルしか演らないとするじゃないですか。それでバンドとしては「今の俺達を見てくれ!」というスタンスをとったとして、そうなると絶対にファンからは「あれ?××は演らないんですか?」って言われるでしょうね。自分はファンだから、そう言いたくなる気持ちはわかるんですよ。

羽鳥:それは長いこと同じバンドでずっとやり続けることの良い点と悪い点の両方がある意味同時に出ちゃったようなものだよね。

 あと、CASBAHというバンドが常に音楽性を変えていくバンドだった、同じ場所に留まらないバンドだったという事がもう一つ大きいと思うんですよ。仮に例えば、同じ場所に留まるようなバンドだったら、そんなに苦痛も感じなかっただろうし、ファンの中でもギャップ…今と昔のギャップを感じなかったんじゃないかと思いますけどね。ある意味では違うバンドとしても見れるじゃないですか。そう考えると、もしかしたら、CASBAHというバンドとしての宿命だったのかなとも思えるんですよ。…例えば、三谷さん(bs/ex-CASBAH:〜1992)が脱退した時にはそういう(バンドに終止符を打つという)事は考えなかったんですか。

羽鳥:三谷が抜けた段階でバンドをストップしようかと? それはまだ無かったね。そりゃ当然固定のメンバーでやれるのが一番いいなぁとは思ってたけど、メンバーチェンジは初めての経験で、新しいメンバーを見つけて頑張ってやろうと、その時はそういう気力はあったから。例えば…今回誰かが抜けるとかっていう事になったら、それでまた新たに「じゃあ、またメンバー募集」、また誰かが抜けた…もうそういうのは嫌だなぁと。もうやめようよ、という話もしてたんだ。「お前等の誰かが抜けるとか辞めるとか、そういう事になったら俺もこのバンドはストップさせるよ。その位のつもりでやろうよ!」と言ってたんだ。

 今回はそれが直接的な原因では無いんですよね。誰かが抜けるからというわけでは…。

羽鳥:そうだね。誰が抜けるっていうのは直接のきっかけではないね。

 やっぱり選択肢としては…一番美しい形を望んだという事ですよね。

羽鳥:…そうだね。

 気持ちとしては解散ではない。それは言葉の問題ですか。

羽鳥:言葉の問題だね。

 例えば、YMOが解散する時に「散解」という言葉を使ったのと一緒ですかね。…違うかな(笑)。

羽鳥:どっかでまた集まれるかなっていうチャンスを残しておいて、っていう事だよね。例えばどっかのバンドが「もう僕等は解散します」って言って、それをいい事に金儲けして、解散ツアーじゃないけどさ、全国廻ってお金儲けして辞めるとかさ、そういうのってあるじゃない、そういう話。そんなのは絶対に嫌だし。今ダメでもさ、わからないじゃない? 10年後…みんなジイサンかも知れないけどさ(笑)、それでも「やろう!」と思えば集まってもいいわけだしさ。そういう可能性っていうのを残しておいてもいいと思うんだよ。だから、解散して再結成っていうのは、俺は好きじゃないから、「だったらそのまま残しておけばいいじゃん」って。…自分の中に思ってる以上にバンド名っていうのが凄い大きくのしかかってて、CASBAHという名前だけは傷付けたくないっていう凄く愛しい気持ちがあるわけ。

 それは凄くわかります。

羽鳥:だから本当にキレイに傷つけずにそっとしまっておける方法って無いのかなってみんなとも相談したんだけれども、それにはまず解散という言葉を使っちゃ、CASBAHという名前に対して…それを傷付けるような事だから出来ないと。

 もしかしたら、そこまで精神的に踏ん切れてないんでしょうね。

羽鳥:ああ…。

 そりゃ十何年も続いてきたものが、今日で「はい終わりました」とはならないですよ。

羽鳥:本当に、解散しましたって言えないと思うよ。本当に、長年連れ添ったパートナー、例えば盲導犬と飼い主の人の別れとかあるじゃない、ああいうものだと思うんだよ。盲導犬っていうのは、もうこれ以上飼い主さんの為に働けないっていう限界まで働いて、その後の余生はあくまでもペットとして過ごすというかさ、そういうルールみたいなものがあるでしょ。それと一緒っていったらおかしいけど、簡単には割りきれないっていうか、離れ離れになってもまだ気になるところはあるじゃない。それは特に俺に強いんだけれども。自分はオリジナルメンバーだから。自分が付けたバンド名だしね。一つだけハッキリ言える事は、このままずるずると今の状態で無理矢理でもいいからみんなをまとめて「この先きっと良い事あるよ、やろう!」っていうような段階ではないし、このままやったらもっとボロボロになる、もっと傷付くっていうのが充分わかったんで…本当に今は「そっとしておこうよ、止めた方がいいよ」と…。

 あともう一つ、同情をひきたくなかったっていうのがあるんじゃないですか。何て言うか、「これは最後のライブだぜ!」みたいな…。

羽鳥:ああ、それは絶対にしたくなかった。だからライブでも言わなかったし。言おうという意見も中にはあったけど、最終的にはみんなで話して、「その事に関してステージで触れるのは止めよう」って、うん。当然、そういう事を前もって言っちゃったら、そういう目でみんなに見に来られちゃうから、それも嫌だったし。

 それが嫌だったんだろうなぁっていうのは思ったんです。

羽鳥:そういう気持ちになって、あのステージに立つのは本当にみんな辛かったと思うんだ。「でもまぁ最後だし演ろうよ!!!」っていう気持ちに半分はなってたんだけども、あのライブは必ずしも4人が4人ともそうなってたわけではないんで…。本当はその前の高円寺(7月16日・高円寺20000V)ので最後の可能性もあったんだよ。

 もう演らずに、そっと消えちゃいたいというか…。

羽鳥:でもその高円寺のライブの時点では、そうなるという予感というか、「もしかしたらこのライブが最後かなぁ」という気持ちを持ってライブを演ったのは俺とギターの村山だけだったのね。リズム隊の2人は何も知らずに演ってたんだ。というのは、俺と村山でそのライブの直前にそういう話し合いをしてたから。だから「もしかしたら今日が最後かな」と俺は思ってたし、奴も思ってただろうと思う。で、ライブ終わってすぐにみんなを集めて、「…というわけで」という話し合いをして、「9月に決まってるライブをどうしようか?」という話になって。

 それは責任感ですよね。決まってるスケジュールをキャンセルしたくなかったという…。

羽鳥:そうだね、勿論それもあるし。

 それをキャンセルして活動休止という形になっていくと変な詮索も入るじゃないですか。だからそれを避けたかったというのもあるでしょうし、結局…一応“最後”という気持ちを持ってメンバーが自分達の中でケジメを付ける為にもやる必要性があったんじゃないですか。

羽鳥:そうだね。結構ね、(9月3日のライブを)やる直前まで「やる、やらない」っていう話し合いをしてて、宇多田ヒカルじゃないけれど(笑)ドタキャンする可能性も凄いあって。でも最後の最後に「よし、やろう!!!」っていう気持ちにみんなの中でなったのよ。「これは最後はやろう!」って。それからみんなのエンジンがかかったはずなのに、そこで上手く乗っていけなかったような事もあって…本当に辛かったね。最後、何とかやれたけどさ。最後のライブに向けてのリハーサルって殆どやってないに等しいからね。ライブの前にリハはもうイヤという程やんなきゃダメなバンドだったんで、それがかなりの間ずっとリハをやらないで、あのライブに臨んだから…気持ち的に…。

 CASBAHは昔からリハの鬼でしたからねぇ。

羽鳥:っていうか、人より倍やらないとヘタクソだからダメだってみんな思ってたと思うから。最後まで気持ち良くは…出来なかったね。

 基本的にはポジティブな感情で動いていたわけではないから、やっぱり100%というのは無理なんでしょうね。ただ、気持ちの区切りをつける上では必然だったと思いますし、それがあるのと無いのでは区切り方も大きく違うと思うんですよ。

羽鳥:まぁ、そうだね。最後、やっていいものなのか、どうなのかっていうのは、本当に自分の中にも葛藤があったし、近い人とかに相談もしたし、本当に自分ではどうしていいかわかんなくなっちゃったからさ。メンバーとも勿論話しあったし。

 ファンからすれば凄い難しい所だと思うんですよ。これが最後だって言うのを知ってて観るのと、知らないで観るのとでは…。

羽鳥:全然違うよねぇ。そういうのを知らされて、暫く見てなかったお客さんが「えっ? 最後じゃ見逃すわけにはいかない」っていうかさ、宣言したら来る人も絶対にいると思うんだよ。

 中には興味本意で観る人もいるでしょうが、それだって見たいから来るわけですし。

羽鳥:そう。でもそれが嫌だった。それはファンの人の事を思ってないからじゃなくて、あくまでも自分達の気持ちの上でそれは出来なかった。

 そこまで余裕があっての行動じゃないんでしょうね。余裕というのも変ですが…。あと、これは是非聞いておきたいのですが、4人は今後も音楽活動を続けていくのでしょうか。

羽鳥:それぞれ違うと思うね。俺は…音楽続けていくかどうか、クエスチョンマークなんだよね。周りからは結構色々と「辞めるなよ」とか言われてるんだけども…うん。実際、凄い悩んでるんだけどね。でも、だいぶ気持ちは固まってきた…かな、最近。今の段階では、9割方…音楽は続けないかもしれない。っていうか、無理だ。俺はCASBAHじゃないとダメだなって気がする。どこに行っても「CASBAHの羽鳥だ」って言われちゃうし、例えば他のバンドで歌ったとしても…。それはそのバンドにもマイナスになっちゃうし。…ちっちゃな世界だけどね。例えば、そんなの何も知らない他の国でバーンといったら、また全然評価は違うんだろうけど。本当にちっちゃな世界だから、拘る必要ないって言ったら拘る必要もない事なんだけど。…でも一人、日本のロック界は、最強のヴォーカリストを亡くしたなって(笑)。ヴォーカリストと言うか、何だろうなぁ、パフォーマーなのかな。

 他のバンドに加入するのはお互いに相当なリスクがあるでしょうね。

羽鳥:そうね。

 例えば、羽鳥さんと村山さんだけでも、別の名前で活動していこうという気持ちは無かったのかというを聞いてみたいんですけど…。どうしても周りの目は引き摺ると思いますが。

羽鳥:それはでもCASBAHだよね(笑)。俺と村山がいたらCASBAHになっちゃうんだよ。そう思うよ。だから、お互いに気持ち良くやるには離れるしか無いんだ。新たにやるんだったらね。じゃないといつまでたってもCASBAHだよ。ずっと二人三脚でやってきたバンドだから、曲の面ではずっと一番提供してくれたのが村山だし、それは否定出来ないし。まぁ、バンド自体の結成は村山が入る前からあったんだけど、あいつが入った85年頃、「HOLD UP」、“Russian Roulette”、“Discharge”、あれがCASBAHのスタートだと思ってるから、だから2人が一緒にいるのはもういけないのかなっていう気もするしね。

 結局、CASBAHという看板を下ろす事、イコール、2人が別の道を歩むこと、なんですかね。

羽鳥:そうだね。バンド名変えて…っていうのは、そういう事もたまにあるけどね。

 そういった小手先の事をしたくなかった。

羽鳥:当然、ロックのアルバムを聴いてね、一番飛び込んでくるのはヴォーカルの声、ギターのサウンド、これは幾ら本人が変えようとしても、長年ね、村山のあのギターの音色に俺のヴォーカルっていうのがずーっと看板になってたわけだからさ、それがバンド名変えたからって変わらないだろうし。だから村山は村山で、俺のヴォーカルじゃないと思えば、全然違う発想で曲が書けるだろうし、その方が発想が開けていくだろうから良いと思うんだよね。俺はあくまでも彼の作曲するサウンドのインスピレーションをずっと信じてやってきたから。自分がそのリフなりフレーズを聴いて血が騒がなければヴォーカルのラインも出来ないし、それどころか歌詞も浮かばないし。それが今迄十何年間もずっと彼が持ってきたフレーズの十発十中まではいかないけれど、10曲書いてきたら7曲はビーンと自分の中でも五感を触るというか、これは凄げぇや!って…これは偶然だよね、本当にね。この巡り合わせはね。で、村山は村山でヴォーカルラインとかを凄く気に入ってくれてて、お互いが本当に曲をより良くしていったという自信が2人にはあったから。でもそれだけじゃ…2人だけではバンドは出来ないものだから。

 結局、まだ時間が無いんですよ。時間が無いというか…やっぱりそう簡単には踏ん切りつかないですよ。恐らく、1年先、もっと先になって、あるいは他のメンバーの活動が軌道に乗ったときに、「ああ、本当に居ないんだな」っていうのを実感すると思うんですよ。まだそこまで行ってないんですよ。

羽鳥:…そうだね。

 メンバーだったら尚更そうでしょうし。ただ、そうは思うんですが、本誌としては伝える義務があると思うんですよ。バンドの意志を尊重してそっとしておく事も可能なんですが…。

羽鳥:いや、いいんだよ。変な話、みんながどう想像しようがそれは自由だからいいんだけど、本当にバンド名だけは…それは自分の拘りなだけなんだけど、本当にバンド名だけは傷つけずにそっとしておきたいというのがあるから、バンドの活動をストップさせるという事になった時に、それをKABBALAの誌面に載せて、俺の会話が載った時に、今迄CASBAHを応援してくれた人が読んで…失望してもらいたくないなと思う…。みんなもそっと閉じ込めてくれるように…。

 CASBAHという看板を守りたかったというか。

羽鳥:守りたかった看板という事じゃないんだけど…それはでも、応援してくれたファンへの気持ちだと思うんだ。みんなが納得するわけないよ。ファンの人達はね。だから、俺の話した事を誌面で読んで、みんなもわかってくれるといいなって思う。みんなもあれこれ言わずに「羽鳥がそう言うんだったらわかった。CASBAHという名前はそっとしまっておくよ」って、なってくれるといいね。「なんで?」「本当の所はどうなの?」「今後はどうなの?」とか、そんな事はいいじゃないか、そっとしておこうよっていう風にみんながなってくれたら嬉しいなっていう気がするね。「解散します。最後だから見に来てください」っていうバンドじゃないと思うんだ。今迄もマイペースで自分達の考えだけでやって来たバンドだからさ、それは最後まで貫き通したいなって気がする。

 …そういった意味ではCASBAHらしかったのかな。

羽鳥:何がCASBAHらしいのかわかんないよね、もう(苦笑)。でもさぁ、幾ら自分等が頑張って曲書いても、それを支持してくれるファンがいなかったらバンドは存続できないからね。そういう人が励ましてくれるんだけど、少なからずそういう人がいるっていう事がさ、そこが一番辛いところだよね。「続けて欲しい」と思ってくれる人もいるわけだからね、そういう人達の事は結局…言い方は悪いけれど、裏切ってしまう事に結果的になっちゃうわけじゃん。そこが一番辛いよね。それは(9月3日に)ライブを演って本当に感じたし。…バンドによってはさ、客がいて当たり前みたいなさ、ステージの中だけが楽しければいいや、お前等は観てろっていうさ、そういう姿勢のバンドもいると思うんだ。でも、俺は「いつも来てくれて有り難う」っていう気持ちでファンのみんなを見てライブのステージに立ってたから、その辺でこの間のライブはねぇ…あんなに一生懸命声を出してくれてさ、それも最後だという事を知らないでさ、「本当にゴメンな、本当にアリガトな」っていう気持ちで…どうにもならなかったね、うん。最後まで歌えないんじゃないかと思ったもんね。もう…半ベソかいてたもんな、俺(笑)。CASBAHは、みんなの応援、十何年間、あれにずっと支えられてきたからね。でも、ライブ終えて楽屋で思いっ切り泣いて全て吹っ切れた。…本当、悪い印象は無いなぁって思う。どんなに客が入らなくても、いつもCASBAHの周りに居た人達はみんな良い人達ばっかりだったよ、本当に。■■■




 読者の中には、全く寝耳に水だったファンもいれば、薄々感づいていたファン、既に情報を得ていたファンもいる事だろう。私自身、今回の原稿を執筆するにあたり、ようやく現実を受け止める事が出来たような気がする。無論、覆水盆に返らずではないが、出されてしまった結果はもはや覆る事もないわけで、グダグダと結果論を言っていても仕方ないのはわかっている。何が悪いとかそういった批判は誰も望んではいないのだから、読者にもこれ以上の余計な詮索をして欲しくはない。それにしても、KABBALAの創刊以来ずっと追いかけてきたCASBAHの終焉を見届ける立場になるとは思わなかった。本誌よりも先に私の目の前から消えてしまうとは思ってもいなかった。これが私の偽ざる心境である。今回、羽鳥氏が私の取材要請を受諾してくれたのは、ひとえにそれが"KABBALA"だったからだと信じている。もう間もなく21世紀を迎えようかという2000年9月3日、CASBAHという名のバンドは永遠の存在になった…。





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